京都伝統文化の森プロジェクト

コラム

2020年03月18日 伝統文化の森

「庭園都市」京都
広井良典(京都伝統文化の森推進協議会 文化的価値発信専門委員

「ガーデン・シティ」という言葉がある。これはイギリスの社会改良家ハワードが1902年に公刊した著書『明日のガーデン・シティ』に由来するもので、人間と自然が共生し、環境と調和した人間的でゆとりある生活のできる都市のあり方を意味している。
ハワードのこうした理念は、それを受けて具体的な都市の設計を進めていった建築家レイモンド・アンウィンの実践とともに、20世紀の都市づくりにおける指針として世界各国の都市計画に影響を与えていった。
ところで、こうした「ガーデン・シティ」について、あまり知られていない事実がある。それは、ハワードやアンウィンは、意外にも当時(明治の初め頃)の日本の都市を「ガーデン・シティ」の一つのモデルとして考えていたという点だ。
すなわちアンウィンは、その著書『都市計画の実践』(1909年)において、日本について「春になると桜の木々の下に人々がくり出して賑やかに過ごす」と記している。花見の季節に、人々が川べりや寺社の脇などでくつろいで過ごしている光景であろう。これが他ならぬ「ガーデン・シティ」のイメージと重ねられたのである。そしてアンウィンのこの後の文章は「もしも私たち(イギリス人)に同様のことができるとするならば・・・」という形で展開されていく。日本は「ガーデン・シティ」の一つのモデルだったのだ。
読者の中ですでにお気づきの方もおられると思うが、ここでの「ガーデン・シティ」は、通常は「田園都市」と訳されるのが一般的である。しかし私は、「ガーデン」という言葉の本来の意味やニュアンスからすれば、それはむしろ「庭園都市」と訳されるべき言葉ないしコンセプトではないかと思う。
以上のようなことを考えていくと、京都がまさに「ガーデン・シティ=庭園都市」の象徴的存在であることが、強い実感をもって浮かび上がってくるだろう。鴨川とその周辺、無数に存在する寺社とその周囲の緑や自然、そして何より、都市景観にとっての不可欠な存在でもある京都三山。
思えば西欧の都市は、たとえばパリにしても、セーヌ川という“自然”が都市の中に存在するとは言え、それは人間によって完全に管理された人工物であるという性格が強い。そうではなく、川や緑、山々などが、できる限りその元の姿を保ちながら都市と融合しているようなあり方が「庭園都市」なのだ。
近年、京都が世界的に注目されているのも、こうした「庭園都市」という姿が、環境問題やエコロジーとの関連を含め、現代そして未来の都市のあり方を見事に示しているからではないだろうか。それは「ガーデン・シティ」をさらに超えて、「エコロジカル・シティ(またはエコ・シティあるいは生態都市)と呼べるような都市像である。
しかもそうした姿は、単に未来志向の都市というにとどまるのではない。それは人間と自然との関わりを含めて、「伝統」的なものを再発見していくという方向とつながり、持続可能性(サステナビリティ)をめぐる議論などの文脈で言われる“なつかしい未来(ancient futures)”という思想と重なる。ここにおいて、それはまさに京都伝統文化の森推進協議会の理念と共振することになる。
以上に関連して、個人的に強く思っている「課題」も記しておきたい。それは京都の街の中心部を、今よりももっと「歩行者中心」の空間にしていくことだ。私はほぼ毎年ドイツを訪れているが、ドイツの都市は80年代頃から、中心部の道路から自動車を完全にシャットアウトし、歩行者(と公共交通機関)のみの“コミュニティ空間”にするという政策を進めてきた。このことの様々なメリットはドイツのどの地方都市に行っても実感されることである。
私は地域再生関係の仕事などで日本各地の都市や町を訪れる機会があるが、京都は日本の中ですでにもっとも“歩いて楽しめる”性格の強い都市であることは確かである。それをさらに一歩進めて、「庭園都市」そして「エコ・シティ」をより豊かにしていく意味でも、一層の歩行者中心の空間づくりに向けた政策展開を期待したい。
最後に、ここで述べてきたような方向に関して私自身は、日本における伝統的な自然観を象徴する“鎮守の森”という理念と、地球温暖化などの現代的な課題と関わる再生可能エネルギー(自然エネルギー)の分散的整備を結びつけた「鎮守の森・自然エネルギープロジェクト」をささやかながら進めている(「鎮守の森コミュニティ研究所」ホームページ参照)。その趣旨や最近の展開については、京都伝統文化の森推進協議会のこれまでの活動をまとめた近著『京都の森と文化』(ナカニシヤ出版)を御参照いただければ幸いである。

文責:広井良典
京都伝統文化の森推進協議会 文化的価値発信専門委員
京都大学こころの未来研究センター 教授

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